魯肉飯の魅力に憑りつかれている。

その美味しさを初めて知った場所は、新橋の「台湾麺線」だったか。ふわっと鼻先をくすぐる八角の香りにくらくらした。薄茶色の煮汁が染み込んだ白米は、何杯でも食べられる気がした。

その後、魯肉飯を食べた回数自体はそれほど多くない。しかし、衝撃的な出会いがあった。大久保にある「SPICY CURRY 魯珈」の魯肉飯だ。

私の中で魯肉飯と言えば、まろやかな甘じょっぱさの中からスパイスがひょっこりと顔を出すような、どちらかというと「静」のイメージがあったが、魯珈の魯肉飯は違う。スプーンで一すくい、口に入れた瞬間にスパイスの香りがはじける。押し寄せる。ビリビリとした刺激すら感じる。荒々しく香り高いこの魯肉飯に、すっかり心を持っていかれてしまったのだった。

スパイスの勉強はまだ始めたばかりで、本場台湾の魯肉飯も食べたことはない。けれども、私なりの「動」の魯肉飯を作ってみたいと思い、自宅で魯肉飯の探求を始めることにした。

試作を繰り返してはいるが、いまだにまったりと穏やかな魯肉飯の域を出ない。スパイスを多く入れればいいというものではないだろうし、簡単な料理なのに奥が深い。納得のいく魯肉飯のレシピまでの道のりは、まだまだ遠そうだ。

ある日の食卓。魯肉飯探求道から少し寄り道をして、白米ではなく麺と合わせてみることにした。魯肉飯ならぬ、魯肉パスタだ。

使用したのは、完全栄養食を謳った「BASE PASTA」。魯肉飯ばかり食べていると栄養の偏りが気になるので、これは強い味方だ。煮汁に少しとろみをつければ、わしわしと食べ応えのある麺にうまく絡んで美味しくいただけるのでは、と踏んだ。

【材料】(2人分)
・豚バラ肉 120g
・玉ねぎ(小) 1個
・長ねぎ 1/2本
・ニンニク 1片
・生姜 1片
・ごま油 大さじ0.5
・水溶き片栗粉 水大さじ1/2+片栗粉大さじ1/2
・パクチー お好み
<ホールスパイス>
・クローブ(ホール) 2個
・黒胡椒(ホール) 2粒
・八角(ホール) 1個
・鷹の爪(ホール) 1本
<煮汁>
・水 110cc
・醤油 大さじ1
・酒 大さじ1
・みりん 大さじ1
・酢 大さじ2/3
・砂糖 小さじ1
・五香粉 小さじ2
・カイエンペッパー 小さじ1/2 ※辛い料理が苦手な場合は、なくてもよい

まず、鍋にごま油を引き、クローブ、黒胡椒、八角、へたを外した鷹の爪を入れてごくごく弱火でじっくり加熱する。

スパイスから気泡が出て甘い香りがしてきたら、みじん切りにしたニンニクと生姜を弱火のままじっくり炒める。この時のキッチンの香りだけで白米をもりもり食べられそう。

豚バラ肉は、1cm平方程度にざっくり切る。重ねた肉を縦に置いて3、4分割にし、左右どちらかに90度回して1cmほどの長さで包丁を入れていけばすぐに切り終わる。しっかりとした食べ応えを求める場合は、少し大きめに切る。

玉ねぎは粗みじん切りに。煮込むととろりと柔らかくなり存在感が希薄になるので、なるべく粗くして食感を残す方が、食べた時に一口ごとの変化が感じられて私は好きだ。

ニンニクと生姜の青くささが飛んで、きれいなきつね色になったタイミングで玉ねぎを鍋に入れる。中火で1分ほど炒めたら、次に豚バラ肉を入れる。肉に火が通って色が変わるぐらいまでざっと炒めたら、いよいよ煮込んでいく。

水、醤油、酒、みりん、酢、砂糖、五香粉、カイエンペッパーを鍋に入れ、煮汁がすべて飛んでしまわないか注意しながら、ごく弱火で5分程度、くつくつと煮る。

斜め薄切りにしたネギを鍋に入れて少し汁と絡め、さらに5分ほど煮る。ネギは、うっすらと緑がかった方の半分を使うとソースの色合いがよくなる。最後に、水溶き片栗粉をとろりと回し入れ、ぐるぐるかき混ぜる。とろみがついたら、魯肉ソースは完成だ。

今回は、BASE PASTAのフィットチーネを使う。お塩を入れたお湯で、たった2分間茹でるだけ。これは手軽でいい。太くてざらっとしていて菜箸で掴みやすいので、ザルを出したり洗ったりが面倒な場合はそのままお皿へ移してしまうこともできる。面倒くさがり屋にやさしいパスタだ。

お皿に盛ったパスタにソースをたっぷりかけて、ざくざく切ったパクチーを上からわさっと乗せる。さて、味はどうだろうか。

豚バラ肉の脂や砂糖、みりんが生むまったりとした甘みに、お酢やパクチーによる爽やかさが加わってバランスがよい。カイエンペッパーのピリピリした刺激は、辛党にはかかせない。やはり魯珈のような動的な印象はないが、八角、クローブが華やかに香る好みの味に仕上がった。

BASE PASTAが持つ小麦の香ばしい香りは、思った以上にこのソースと相性がいい。シャキシャキと食感の残るネギ、そしてとろみのついたソースが太い麺にしっかり絡まる。かすかにプチプチと感じる食感は、パスタに練りこまれているチアシードだろうか。もっちりと食べ応えがあり、一皿で十分満足できる。

魯肉飯探求のつかの間の寄り道、パスタとの意外な相性を発見できて楽しい夜だった。

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