別の記事(石垣島グルメ「八重山そば」をめぐる旅)にも書いたが、4月上旬に一人で石垣島へ行ってきた。三泊四日の小旅行だ。

3日目の夜、ホタル鑑賞ツアーに参加した。観光客の少ない時期だったので、参加者はなんと私一人。贅沢だ。
ガイドさんが山中の穴場まで連れて行ってくれて、米粒ほどのヤエヤマヒメボタルがあちらこちらで点滅する様を眺めた。ゲンジボタルのふわっとした光り方とは違い、かなり早いスピードでチカチカと明滅する。まるでイルミネーションのようだった。

翌日の予定を何も決めていなかったので、ガイドさんに「石垣島の見どころって何がありますかねえ、特に曇りの日の」と相談してみる。
「川平湾は行ったんですもんね、鍾乳洞もあえて見なくていいかなあ……車もないとなると、うーん、竹富島にもう一回とか……?」と色々悩んでくれた末に、「明日那覇から来るカメラマンの友人と、石垣島一周ドライブをしながら島内を撮影するのですがよければ一緒に来ますか?」とお誘いいただいた。
私は筋金入りのペーパードライバーなので今回車をレンタルすることを諦めていて、石垣島の北の方に行けずなかなか悔しい思いをしていた。渡りに船、と二つ返事でご一緒させていただくことに。

翌日は、10時に離島ターミナル付近に集合した。島内一周後は、16時頃までに石垣空港へ送っていただけることになった。
「行きたいところがあったらなんでも言ってね」とおっしゃっていただけたので、まずは八重山そばが有名な「明石食堂」をリクエスト。明石食堂のことは、石垣島グルメ「八重山そば」をめぐる旅に詳しく書いているので割愛する。

「明石食堂」でおなかを満たした後は、石垣島の最北端「平久保崎灯台」まで行ったり。

マングローブが生い茂る川を見たり。

川辺にいたシオマネキという小さなカニが可愛かった。南の島の生き物ってカラフルできれい。

ガイドさんによると、大きい方のハサミ(片側だけ大きい)で内側にくいっくいっと何かを招くような動きをするのでシオマネキと言うそう。

2日目に一人で訪れた川平湾にもう一度行ったり。

曇っているとまた雰囲気が全然違う。海の色が違う。

こちらが晴れていた時の写真。

砂浜に猫がたくさんいて可愛かった。

せっせと穴を掘ってる。

石垣島を半周以上回ったところで「他に何か食べたいとかある?」と聞かれたので、「ヤギ汁が食べたいです!」とリクエスト。
東京ではなかなか食べられる場所がなく、気になっていたのだ。そもそもヤギ料理自体、いただく機会が全然ない。数年前に沖縄本島で食べてその美味しさに感動したヤギの血の煮込みも、東京で出会えることはなくそれっきりだ。

「スイーツとかじゃないんだね」と苦笑いしつつも、ヤギ汁が食べられるお店をすぐに調べてくださる頼もしいお二方。
15時頃だったので、ランチタイムを過ぎていて微妙な時間帯だ。
おいしいと評判のお店が1軒あるとのことだったが、お店の前まで行くと、材料切れでヤギ汁が作れないとの案内書きが表に出されていた。

お二人の間でひそひそと相談が始まる。
「やっぱトニーそばしかないんじゃないかな」
「いや……ちゃんと調べて次来た時にどこか他のところに行った方がいいんじゃないかな」
「でも一回トニーそばに行ってみてほしい気持ちはあるな」

トニーそば。それは旅行前に石垣島グルメを調べていた時、ネットで何度も目にした名前だ。
癖のあるヤギ汁を癖のある店内でいただきつつ、これまた癖のある店主さんが時間を気にせずしゃべりまくる、というのがネットから得た「トニーそば永福食堂」のイメージである。

離島ターミナルからそう遠くないので旅行1日目にお店の前を通ったが、一面水色に塗られた建物と独特な看板に気圧されてしまい、入るのをやめたのだった。
一人だと難しかったが、地元の方と一緒になら入れそうだ。千載一遇のチャンス!
「まあ、やっぱやめた方がいっか」と空港に向けてルートを変更したお二人に、「トニーそば、行きたいです!」と猛アピール。わがままを聞いてくださり、連れて行っていただけることになった。

ガイドさんのご友人は「車で待ってるよ」とのことだったので、ガイドさんと二人でいざ出陣。
ちなみにガイドさんはもう10年以上石垣島に住んでいるが、「トニーそば永福食堂」へ行ったのは移住してきた頃の1回だけらしい。
「遅れずに飛行機に乗りたいのであれば、店内に貼られた俳優のポスターに興味を示さない方がいいよ」とのアドバイスをいただく。

おそるおそる店内に入ると、先客は外国人の男性二人組のみだった。
テレビでは、石垣島を紹介する英語の番組が流れている。外国人客用なのかもしれない。

お店の奥の方から店主さんがやってきた。ネットの記事で見ていたお顔だったので、「本人だ!」と少し感動しながらヤギ汁を注文する。
ガイドさんは、なんとコーラのみ。わがままにお付き合いいただいてなんだか申し訳ない気持ちだ。

しばらくして、待ちに待ったヤギ汁が到着!

獣感のある独特の香りがたちのぼる。
これがヤギさんの香りか、期待どおり!と、珍しい食べものや癖の強い食べものに目がない私はテンションがうなぎのぼり。
ガイドさんが心配そうな顔でこちらを見つめている。

汁をレンゲで一口すする。
お、意外と食べやすい?
想像していたような、鼻に抜けるくさみはない。博多で食べたとんこつラーメンの方が動物感あふれるにおいを発していたように思う。
もしかすると、ヨモギの葉がくさみ消しとして絶大な効果を発揮しているのかもしれない。

もちろん独特の癖は感じるが、それこそがこのヤギ汁の魅力である。
ヤギのやわらかな香りを胸いっぱいに吸い込む。かぐわしい。
この汁はライスともかなり相性がよさそう。

Googleに「トニーそば」と入れると「トニーそば まずい」なんていう検索キーワード候補が出てくるが、いやいやこれはかなりおいしいよ!というのが私の感想だ。
食べてからしばらく日が経つとまた恋しくなるような、中毒性の高い味である。

お値段は1,000円。八重山そばなど他のメニューと比べると少し高めだが、二人でわけても足りるぐらいの量で提供されるので満足感がある。

お肉は脂が少なく、少しかため。確かにヤギってあまりやわらかそうなイメージないもんな、と思いながら噛みしめる。ヘルシーな気配がする。
お肉の量が多いので、食べ終わるとかなり満腹だ。

食べ終わると、満を持して店主さんが近づいてきた。ガイドさんの事前のアドバイスに従い、壁一面に貼られた俳優のポスターからそっと目をそらす。
「どこから来たの?東京?お兄さんは?あ、石垣の人?何年いるの?ああそう、大変だよ、ここで暮らしていくのは」と、早速店主さんのマシンガントークが始まった。
テーブルのそばに椅子を持ってきてタバコをふかしながら、石垣島で暮らすことの大変さ、お店にいる時以外は釣りをして生計を立てているんだ、といったことが怒涛のように語られる。

「トニーそば栄福食堂」に対しては様々な前情報があって身構えていたが、予定が詰まっていない日にぷらっと来てお話を伺ったら面白そうだなあと思う。ヤギ汁のことはもちろん、石垣島のこともたくさん教えていただけそうだ。

ただ、残念なことに空港へ急がなければいけない時間だった。
話の切れ目(と言ってもはっきりとした切れ目はなく息継ぎ程度の隙間)にすっとお財布を出し、さっと立ち上がる。
Facebookページなども運営されているそうで、案内が書かれたショップカードをいただいてお店を出た。

石垣島旅行の最後に、ここのヤギ汁を食べることができてよかった。気になったまま食べないで帰っていたらきっと後悔したはずだ。
連れて行っていただいたお二人には感謝しかない。
また石垣島を訪れた際には、今度は一人でふらりと立ち寄ってみようと思う。

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