圧力鍋を買った。料理に使うチキンストックを自分でとってみたくなったのだ。もちろん、キッチンの片隅でレトルト食品入れと化している寸胴鍋なんかを使ってとることもできるのだけれど、何時間も火の番をしなければいけないので手軽さに欠ける。

初めて圧力鍋を使ったのは、一人暮らしを始めた6年ほど前のことだ。当時買ったのは、パール金属の小さな圧力鍋だった。使い方を誤ると蓋が吹っ飛んで大惨事になる、といった情報をネットで何度も目にしていたので、かなり怯えながら火にかけていた記憶がある。

使わないまましばらく経つと使用方法を忘れてしまい、その度に説明書を見なければならないのが億劫だった。鍋を洗う際にはおもりやバネなどのパーツがばらばらとわかれてしまうので、うっかりなくしてしまいそうで怖いし、乾かし終わった後に正しく元の位置へ戻せるか不安になった。

「あれ、蓋ってこんなにゆるゆるだったっけ?」と思いながらも火をつけて少し経ち、ふとキッチンを見回したら蓋のパッキンが取り残されていたこともあった。慌てて火を止めたが、鍋に触るのが怖くてだいぶ長い時間放置せざるを得なかった。(今思うと、パッキンがないので圧力はかかっていなかっただろうけれど、その時は吹き飛んだ蓋が顔にめり込む想像なんかをして冷や汗だらだらだった)

そんなこともあってなんとなく使う気がしなくなり、埃をかぶったまま数年が経ったので、断捨離の時に捨ててしまった。

再び圧力鍋を所有したいと思ったきっかけはもう一つある。南インド料理の魅力にとりつかれてしまったことだ。南インドではダル(豆)がよく使われており、肉を使わずとも食べごたえのあるダルカレーはヘルシーで気に入っている。家でも作ってみたいと思ったのだけれど、豆の調理は圧力鍋がないと非常に時間がかかってしまう。インドの家庭でも、圧力鍋は必需品だという。

一度捨てたのにまた物を増やすのか、と自分でも呆れてしまうが、以前持っていた圧力鍋の欠点や今回思い描いている用途を踏まえて、買うべき圧力鍋のスペックを考え始めることにした。

まず、おもり式の鍋は除外する。加圧時の音が恐怖心を煽るし、洗う際にパーツがばらばらになるとまた面倒で使わなくなってしまいそうだからだ。

チキンストックをとるという目的があるので、なるべく大きな鍋がいい。一度にたくさんとって冷凍保存しておきたい。いざとなったら丸鶏も入れられる、6リットルの鍋がよさそうだ。当分予定はないけれど、6リットルもあれば家族が増えても活用できる。これより大きいと我が家のシンクに収まらず、急冷ができなくなってしまう。

圧力の高低は、切り替えられた方がより柔軟に料理ができそうだ。低圧と高圧の2段階切り替えができる圧力鍋は多いが、調べていると「超高圧」にも対応する圧力鍋があった。そうと聞くと、なんだか3段階切り替えの鍋が欲しくなってしまう。使いこなせるかよくわからないが、自由度は高いほうがいい。

この条件にぴったり当てはまるのが、フィスラーのプレミアムプラス 6Lだった。なかなかのお値段で逡巡したものの、絶対に活用し尽くすと心に誓い、震える指で購入ボタンを押した。

フィスラーの圧力鍋はデザインが美しく、コンロに置くだけでキッチンが華やかになる。表面は艶やかで、思わずすりすりしたくなるほどだ。

早速茹で鶏を作ってみることにする。鶏もも肉を2枚、皮目を下にして鍋底に並べ、かぶるぐらいの水を入れて強火にかける。圧力は高圧を選んでおく。

数分すると、メインバルブがゆっくりと上がり始める。メインバルブの側面には色がついていて、最初に黄色の線、続いて緑色の線が表れる。緑の線の幅が黄色と同じぐらいになったところで弱火し、そこから10分経ったら火を止める。メインバルブが今度はゆっくりと下がっていき、元の位置に落ち着いたら調理が完了する。単純明快な仕組みだ。

ただし、メインバルブが下がりきってすぐに蓋を開けようとすると、まだ圧が残っていることがあり、取っ手の根本から勢いよく蒸気が噴き出す。時間を十分に置くなりシンクで急冷するなりし、念のためミトンを手にはめてから開けた方がよい。

気になっていた調理中の音だが、フィスラーの圧力鍋はおもり式ではなくスプリング式を採用しているため、メインバルブが上がる前に2、3回蒸気が噴き出す音がする以外はほぼ無音だった。

さらに、毎回分解清掃をするわけではないので、洗う際には蓋、パッキン、鍋本体にわかれるのみで、細かいパーツをなくしてしまう心配もない。これほどストレスなく圧力鍋を使えるとは、嬉しいかぎりだ。

加圧後の鶏もも肉は、箸で持ち上げるとほろほろと崩れるやわらかさ。コクのあるチキンスープもばっちりとれている。茹で鶏は一度作って冷蔵庫に入れておけば、数日間色々な料理に使いまわせるので便利だ。

お次はダルカレー。洗って30分ほど水に浸したムング豆を鍋に入れ、豆がかぶるぐらいの水を注いだら、落し蓋代わりに鍋付属の蒸し器を乗せる。高圧で3分、あっという間にとろりと崩れた煮豆になる。別の鍋でカレーのペーストを作っておき、加圧したムング豆を加えて少し煮込めばダルカレーの完成だ。

家庭料理の定番、肉じゃが作りにも圧力鍋は威力を発揮する。高圧3分で、じゃがいもやニンジンが驚くほど柔らかくなる。味のしみ込み具合も文句なしだ。

寒い時期には、おでんもいい。高圧で1分、大根を下茹でした後、他の具と煮汁を入れて今度は高圧5分。おでんは時間がかかるイメージがあってこれまで作ったことがなかったけれど、あっという間にできあがってしまった。出汁のよく染みた大根を頬張った瞬間の幸福感といったらない。

圧力鍋があると、「時間がかかるし……」と敬遠していた料理が手軽に作れるようになり、レパートリーが充実する。仕事で帰りが遅くなった日でも、ちょっと手の込んだ夜ごはんを作れたりする。

蓋を開けて、もうもうと上がる湯気の向こうに、数分前とは明らかに姿を変えた肉や野菜が見えた瞬間には爽快感すら覚える。大根もニンジンもじゃがいもも、いちいち箸でつついて確かめずとも、ほくほくとやわらかくなっているのがわかるのだ。

気づけば10日間で4回も働かされている圧力鍋は、持ち主の満足感を知ってか知らでか、今日もコンロの上で得意げに胸を張っている。

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